■ 第9回 トロッタの会 鉄と コンクリートの街に 潮騒を聞く 砂浜があった 街角の向こうに 夜明けの海が見える それは青 深くて濃い 生命を今も 育んでいる 2009年9月27日(日)15時開演 14時30分開場 会場・エレクトーンシティ渋谷 『La Nouvelle Chanson de IMAI Shigueyuki』2009 作曲/今井重幸 「ピノッキアーナ」編曲・清道洋一 詩・今井重幸 「風はつぶやく」編曲・橘川琢 詩・尾嶋義之 「哀しみの海の滄さ」編曲・橘川琢 詩・山本雅臣 ヴォーカル/笠原千恵美 フルート/田中千晴 オーボエ/今西香菜子 クラリネット/藤本彩花 ヴァイオリン/田口薫 ヴィオラ/仁科拓也 チェロ/香月圭祐 ピアノ/並木桂子 バンドネオン/生水敬一朗 エレクトーン/大谷歩 『アルバ/理想の海』2009 作曲/大谷歩 詩/木部与巴仁 ソプラノ/赤羽佐東子 ヴォーカル/笠原千恵美 詩唱/木部与巴仁 ヴァイオリン/戸塚ふみ代 ヴァイオリン/田口薫 ヴィオラ/仁科拓也 チェロ/香月圭祐 エレクトーン/大谷歩 『花骸-はなむくろ-』op.37 2009 作曲/橘川琢 詩/木部与巴仁 詩唱/木部与巴仁 詩唱/中川博正 フルート/田中千晴 ヴァイオリン/戸塚ふみ代 花/上野雄次 『ムーヴメント〜木部与巴仁「亂譜」に依る』2007/2009[編作版初演] 作曲/田中修一 詩/木部与巴仁 ソプラノ/赤羽佐東子 打楽器/星華子 ピアノ/森川あづさ エレクトーン/大谷歩 フルート、ファゴット、エレクトーンのための『青峰悠映』-序奏と田園舞- 1989/2009 作曲/今井重幸 フルート/田中千晴 ファゴット/平昌子 エレクトーン/大谷歩 『Venus 4〜6』1972 作曲/Alejandro BARLETTA アレハンドロ バルレッタ ヴァイオリン/戸塚ふみ代 バンドネオン/生水敬一朗 詩曲『宇の言葉〜七角星雲・光うた・火の山〜』op.39 2009 詩・作曲/橘川琢 詩唱/木部与巴仁 ヴァイオリン/戸塚ふみ代 *予定されていました『1997年 秋からの呼び声』は差し替えられました。 『アルメイダ』2009 作曲・清道洋一 詩・木部与巴仁 ソプラノ/赤羽佐東子 ヴォーカル/笠原千恵美 詩唱/木部与巴仁 詩唱/中川博正 ヴァイオリン/戸塚ふみ代 ヴァイオリン/田口薫 ヴィオラ/仁科拓也 チェロ/香月圭祐 フルート/田中千晴 オーボエ/今西香菜子 クラリネット/藤本彩花 ファゴット/平昌子 ピアノ/徳田絵里子 エレクトーン/大谷歩 『めぐりあい 秋』2008/2009 作曲/宮崎文香 編曲/大谷歩 詩/木部与巴仁 出演者とお客様による合唱・合奏 |
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トロッタ9 本番までの通信;3(9.12) 街 焼き尽くさば 瓦礫なす 荒れ野なり 見たし と思へど 街のさま すでに 瓦礫なりや われ ひとともに あてどなく 往き来する か 心 乱る ひとり居(い)に 交わりに 問へど その故 くらし 身を割く ひびわれの道に似て 割けと ひたすらに 乱る か 白々明けの街に 寂しき 靴音響く あてどなし 影を追ひ ひたすらに 往く 山となり おびただしく積む 心写しの 瓦礫 疾風(はやて)たち 白き頬に ひと筋の血 にじむ あざやかなり 赤 田中修一・作曲 木部与巴仁・詩 『MOVEMENT』(原詩「亂譜」) トロッタ9まで、残り2週間となりました。2週間後には、本番です。最低でもあと2回、何としても「本番までの通信」を出そうと思います。 ここに掲げました詩は、田中修一さん作曲の『MOVEMENT』に用いられる詩「亂譜(らんふ)」です。これは田中氏が何度も語っていることですが、2台ピアノのための曲をと私が求めまして、私も彼も、2台ピアノの演奏にふさわしい作品をめざして創りました。人によって、ピアノを2台使う必要を疑問視する意見もありましたが、私はこれでいいと信じます。仮に、その疑問が正当であったとしても、人には実験をする自由があります。そのことに限らず、人の熱意に水をさすような態度は、尊敬できるものではありません。トロッタ3で初演された曲であり、2年が経ち、トロッタ9でエレクトーン版として生まれ変わることになりました。 新宿駅西口方面に、高層ビル群があります。人の叡智を集めて造られた建築物ですが、温かみを感じるでしょうか。人の姿が見えません。大勢の人が中にいるのですが、外部の者はまったく拒絶されて感じます。そのようなものを造るのが人の叡智だとは、思いたくないのが本音です。だらしなくていいから、人間らしくありたいと思います。 トロッタの会に限らず、音楽や文学は、人間らしさを求めるものでしょう。コンピュータ音楽が人間らしいかどうか。今は判断できません。この文章もコンピュータで書き、コンピュータでお読みいただくのですから。現代人の生活から、コンピュータを全面的に排除してしまうことはできないと思っています。では、どうするか? 考え続けてまいります。 高速鉄道、高速飛行機、高速船。どれも便利であり、もちろん私も利用しますが、速ければいいというものではないと思います。どれも外部を遮断し、冷たい外見をしています。人の能力を大幅に超えるものは、おおむね冷たくなるようです。そうした乗り物で身体をいためた例を見聞きします。私自身、高速鉄道から降りた時、非常に疲れた記憶があります。 このような考えを表わしたくて、「亂譜」を書いたのではありません。しかし、高層ビル群に瓦礫を感じたことは確かです。ニューヨークで起きた同時多発テロ事件で、まさに現代の叡知から生まれた高層ビルが、瓦礫になってしまいました。この詩を、その光景に重ねて詠むことも不可能ではありません。現代人は知ってしまいました。あのような建物を造れば、いつの日か、瓦礫になってしまうことを。戦争による惨状にも、同じことがいえます。 この曲を歌うのは、ソプラノの赤羽佐東子さんです。赤羽さんには、田中修一さんの曲を、多く歌っていただいています。赤羽さんの声で瓦礫が広がる都市の光景を歌うとは皮肉ですが、真の凄みは、美しさを通してこそ表現されるのではないでしょうか。 皆様のご予約を、お待ち申し上げます。 〈木部与巴仁〉 トロッタ9 本番までの通信;2(8.28) ちひろのそこにあるといふ あおきみやこへたびをせむ ちひろのはてにきえてゆく ゆめのみやこでゑひたしと うみのそこにもゆきはふる うみのそこにもつきはてる うみのそこにもはなはさき うみのそこにもとりはとぶ いくせんねんがすぎてゆく ただ またたきのまに 清道洋一・作曲 木部与巴仁・詩 『アルメイダ』より「千尋」 第9回「トロッタの会」まで、残り1か月となりました。エレクトーンシティ渋谷でトロッタを行うプランは、すでに昨年の夏に生まれていました。1年がかりの実現です。長いように感じていました。しかし、あと1か月。本番は9月27日(日)15時開演です。関係者を含め、会場にいる全員が新しい世界と向き合います。 他愛もないことですが、以前、今回のトロッタ9は海の印象が強いと書きました。その文章を、8月初旬にしたためたせいであったでしょう。大谷歩さん作曲の『アルバ/理想の海』や、清道洋一さん作曲の『アルメイダ』といった、海に関わる曲が並んだせいもあったでしょう。夏と海にちなむ曲を、昨年の段階では演奏するプランであったことも、関係しているかもしれません。しかし、本番は9月27日(日)であり、季節は秋です。私にとって、海といえば夏ですが、この思いこみは、通じません。秋の海もあります。冬の海もあります。海を前に、解釈と表現を広げなければならない、柔軟にならなければと痛感します。 冒頭に掲げました詩は、『アルメイダ』の一篇、「千尋」です。清道洋一さんから、詩を書いて欲しい、と依頼された時、テーマは“架空のコマーシャル”でした。街や家庭で見聞きする、さまざまなコマーシャルがあります。そのための詩を創れないかと求められたのでした。考えましたが、難しく、コマーシャルとは世界を伝えることだと拡大解釈し、架空の国を作って、そこにまつわる様々な詩を書こうと思いました。国の名は、アルメイダ。海に浮かぶ海国として知られている、という設定です。−具体的にいえば、コマーシャルだと、コミック・ソングのようなものも書かなければ面白くなく、それは私には難しいという判断がありました− 古謡としての「千尋」を始め、国歌「碧(あお)き国」、フォークソング「鳥」、歴史を題材にした歌「微笑みこそ」、現代詩にもとづく歌「ひとで」「わだつみ」「夜の海」、アルメイダを舞台にした歌劇『アルメイダ』より「王妃の詠唱」を書き、これらを散文詩「亡命詩人」で結びつけました。 しかし、原作どおりに楽曲化しますと、一時間ではとうていおさまらない規模になります。トロッタで一曲に長時間を使うわけにはいかないという理由と、詩に引きずられない、清道さん自身の音楽にするためでしょう、彼は大胆な改変作業を行いました。トロッタ9で演奏される『アルメイダ』は、原作の何分の一かです。さらに、清道さんの創作によるせりふなどが、大幅に取り入れられます。私と清道さんの世界というより、清道さん単独の世界といった方がいいでしょう。どの作曲家との作業も、私はそれでいいと思っています。*ちなみに、トロッタ9が終わった直後、9月30日(水)から10月12日(月・祝)まで、東京・谷中のカフェ、谷中ボッサにて、造形と詩の共同展「扇田克也+木部与巴仁〈ユメノニワ〉」が行われ、初日と10月11日(日)、「ボッサ 声と音の会vol.5 音の形、詩の形、夢の形」が行われます。その二日目に、清道氏は『即興的断章 アルメイダより』を発表します。トロッタ9とは違う『アルメイダ』が聴けるでしょう。 詩と音楽が融け合い、詩人の思いもよらない音楽が生まれようとしています。お楽しみに。 御予約、お問い合わせをお待ち申しあげます。 〈木部与巴仁〉
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