torotta10.poem


■ 第10回 トロッタの会

作ってあげましょう
あなたのために
人形を
作ってあげる
あなたに似せた
やせっぽちの
人形

2009年12月5日(土)14時開演 13時30分開場
会場・新宿ハーモニックホール

『La Nouvelle Chanson de IMAI Shigueyuki 2』 2009
作曲/今井重幸
「鎮静剤」橘川琢・編曲 詩・マリー・ローランサン 訳・堀口大學
「わたしの胸の夕ぞらに」清道洋一・編曲 詩・吉田定一
クラリネット/藤本彩花 ヴァイオリン/田口薫 バンドネオン/生水敬一朗 ピアノ/並木桂子

『雨の午後/蜚』 2009
作曲/田中修一 詩/木部与巴仁
ソプラノ/赤羽佐東子 バリトン/木部与巴仁 オーボエ/今西香菜子 ファゴット/小楠千尋 ピアノ/徳田絵里子

『知床半島の漁夫の歌』 1960
作曲/伊福部昭 詩/更科源蔵
バリトン/根岸一郎 ピアノ/並木桂子

『詩歌曲 死の花 op.40』 2009
作曲/橘川琢 詩/木部与巴仁
ソプラノ/赤羽佐東子 詩唱/木部与巴仁 ヴァイオリン/戸塚ふみ代 ピアノ/徳田絵里子

捨てたうた 2009
作曲/田中隆司 詩/木部与巴仁
詩唱/松谷有梨、黒田公祐、木部与巴仁 ヴォーカル/笠原千恵美 フルート/八木ちはる オーボエ/今西香菜子 ヴァイオリン/戸塚ふみ代 ピアノ/徳田恵理子

『Cinco preludios cosmicos(5つの宇宙的前奏曲)』 1968-1969
作曲/Alejandro BARLETTA アレハンドロ バルレッタ
バンドネオン/生水敬一朗

『主題と変奏、或いはBGMの効用について』 2008
作曲/清道洋一
詩唱/木部与巴仁 ナレーション(ヴォーカル)/笠原千恵美 弦楽四重奏/戸塚ふみ代、田口薫、仁科拓也、香月圭佑

時は静かに過ぎる(「奇妙-ふしぎ-な消失」より) 2009
G.アポリネール原作、堀口大學訳詩による紀光郎詩的構成
作曲/今井重幸
バリトン/根岸一郎 ソプラノ/赤羽佐東子 フルート/八木ちはる オーボエ/今西香菜子 ファゴット/小楠千尋 弦楽四重奏/戸塚ふみ代、田口薫、仁科拓也、香月圭佑 打楽器/内藤修央 詩唱・朗読/木部与巴仁

『めぐりあい〜陽だまり〜』 2008/2009
作曲/宮崎文香 編曲/田中修一 詩/木部与巴仁
出演者とお客様による合唱・合奏





La Nouvelle Chanson de IMAI Shigueyuki 2

「鎮静剤」

マリー・ローランサン 訳/堀口大學



退屈な女より
もつと哀れなのは
かなしい女です。

かなしい女より
もつと哀れなのは
不幸な女です。

不幸な女より
もつと哀れなのは
病気の女です。

病気の女より
もつと哀れなのは
捨てられた女です。

捨てられた女より
もつと哀れなのは
よるべない女です。

よるべない女より
もつと哀れなのは
追われた女です。

追われた女より
もつと哀れなのは
死んだ女です。

死んだ女より
もつと哀れなのは
忘られた女です。

「わたしの胸の夕ぞらに」

吉田定一

わたしの 胸の 夕ぞらに
わたしが かがやく いちばん星

あなたの ひとみ みーつけた
だいすき ひとつ みーつけた

砂はまに わすれた 影ぼうし
あした あなたに あえるかな

わたしの 胸の 朝ぞらに
わたしを うつす かいがら月

やさしさ ひとつ みーつけた
さみしさ ひとつ みーつけた

涙で ぬれてる ウサギギク
きのうの わたしと さよならね

わたしの 胸に ふく風に
むかって とびたつ うみどりいちわ

ゆうき ひとつ みーつけた
ほほえみ ひとつ みーつけた

野ゆき 山ゆき 海ゆけば
あなたの カモメに なれるかな

   *

『雨の午後/蜚(ごきぶり)』
*以下は、木部与巴仁の詩に、田中修一氏が手を加えたものです。

「雨の午後」

木部与巴仁/田中修一

濡れて飛ぶ鳥も戀を知る
傘は嫌い
濡れたまま歩きたい

濡れて飛ぶ鳥は戀を知る
傘はない
濡れたまま歩いてゐたい

五月の雨を切り
濡れながら飛んでゐる
傘をなくした
一羽の鳥

*以下の詩は、『雨の午後』の全文です。

濡れて飛ぶ鳥も恋を知る
傘は嫌い
濡れたまま歩きたい

あなたの絵を描かせてください
駆け寄ってきたひとりの女
あの人が画家です
なるほど街灯の陰に男が見えた
変に思われないよう
私がお願いに来ました

はっきりいえばいい
ぼくがあなたを描きます
喜んで私は裸になるだろう
でも女がいっている
きっと綺麗に描いてくれますよ

濡れて飛ぶ鳥は恋を知る
綺麗じゃなくて
ありのままを描いて
傘はない
濡れたまま歩いていたい

描かせていただけませんか
お願いします
泣き出しそうな顔をしているね
彼はあなたを描いたの?
描かれたあなたが
私を誘うの?

五月の雨を切り
濡れながら飛んでいる
傘をなくした
あなたも私も 一羽の鳥


「蜚」

滿月に誘はれ
ほろ醉ひ加減のゴキブリがさまよひ出た
長い角をくすぐる秋の風
飴色に濡れた翼が光る
月の光に。ああ、
獨り歩きの夜
輝く月に。ああ、
踊り明かさう、たった一人で
いいぢゃないか、このままで
誰のものでもない、人生だ
なんて心地いい、秋の夜
たたんだ翼に、月の光が乘ってゐる。

   *

『知床半島の漁夫の歌』

更科源蔵/伊福部昭

死滅した侏羅紀の岩層(いわ)に
冷たく永劫の波はどよめき
落日もなく蒼茫と海は暮れて
雲波に沈む北日本列島

生命(いのち)を呑み込む髑髏の洞窟(め)
燐光燃えて骨は朽ち行き
灰一色に今昔は包まれ
浜薔薇(はまなす)散ってシレトコは眠る

暗く蒼く北の水
海獣に向う銃火の叫び
うつろに響いて海は笑い
空しき網をたぐって舟唄は帰る。

shikotpet chep ot シコツペツに魚みち来れば
tushpet chep sak ツシペツに魚ゐずなりゆき
ekoikaun he chip ashte 東の方に舟を走らせ

ekoipukun he chip ashte 西の方に舟を走らす
tushpet chep ot ツシペツに魚みち来れば
shikotpet chep sak シコツペツに魚ゐずなりゆく

流木が囲む漁場の煙
焚火にこげる(サクイペ)の腹
わびしくランプともり
郷愁に潤む漁夫のまなじり

火の山の神(カムイ)も滅び星は消え
石器埋る岬の草地
風は悲愁の柴笛(モックル)を吹き
霧雨(ジリ)に濡れてトリカブトの紫闇に咲くか

   *

『死の花』

木部与巴仁



死にに行く者が見るという
彼岸の花
さっきも見てきた
駅前で
泥になってベンチで眠る
男たちの周りに花が咲いていた
ここはもう彼岸かもしれない



食べ尽くされて
殻だけになった
ごみむしを活ける
花の形として
破れてしまった翅
ゆがんだ脚
かしげた首で物思いにふけっている
この花をあなたたちへ
誰が食べたの?
命を望んだほどの愛
舌鼓を聴きながら
意識は遠去かる
舌なめずりに身をまかせた
これきりなのだからと



花は血
飛沫となって地面に散る
私はそれを
すくいあげて活ける
手を血に染め
命で濡らしながら
終わりも知らず活けている



縒り上げた糸に似る
ごみむしの角
つや光りした胴体に
世界が映る
静寂
生と死の境界はわずか
沈黙
聴こうとして聴かず
ただじっと
花になったごみむしが
私を見ている
いつかはおまえを
花にしたい
おまえの形を見てみたい
いいだろう
六脚の主に
この身を捧ぐ
覚悟はできている

   *

『捨てたうた』

*以下三篇の詩『約束 一九九七年のために』『時速0km下の世界』『万華鏡』は、田中隆司構成『捨てたうた』のもとになった詩です。三篇の後に、音楽としての『捨てたうた』に用いられる、「解体再構成」された詩を掲げました。

「約束 一九七七年のために」

木部与巴仁



作ってあげましょう
あなたのために
人形を
作ってあげる
あなたに似せた
やせっぽちの
人形
いつの日にか
思いながら
時間だけが過ぎてゆく



覚えているでしょう
川べりの喫茶店
議論に疲れて
水だけを飲んでいた
若かった
あなたと私
早過ぎたのね
何もかも
今ならば
許せると思うのに



三十年が経つ
初めて出会った
あの瞬間
二十歳のあなたは
まぶしかった



歌ってあげましょう
あなたのために
もう一度
泣きながら
声を合わせた
あの歌を



あなたが流した
血と涙を
私はきっと忘れない
子どもがね
死んでしまったあなたと
もう同じ年なのよ



早過ぎる落ち葉に
私の心は
釘づけられて
ふたりで暮らした
あの町を
訪うこともなく
私はあなたを
想っている



「時速0km下の世界」

木部与巴仁

満月だった
水の中の魚(うお)として
空を見あげた

「間もなく二番線に
普通電車三鷹行きが参ります」

花が咲いていた
世の果ての山に似る
満開の有り様(ありよう)

「黄色い線の内側まで
下がってお待ちください」

海の満ち干
逆巻く潮(うしお)が
渦になって流れている

「電車とホームの間が
広く空いておりますので
御注意ください」

最後の一歩を踏み出せなかった
あの日々
ホームの端で
鈍色(にびいろ)のレールを見つめていた
光る
虚空の月

「危険ですから下がってください」

急ぎ足で去ってゆく
女たち男たち
誰でもいい
背中を押してほしかった
カーブを描いたホーム
その真下に
速度のない世界を見た

どんなところ? そこは
静かだよ 何も聴こえない
寂しくないの?
本当の自由がある
行ってみたいな
来ればいい すぐそこにあるんだから

振り返ると
きみはぼくを見ていた
不安なまなざしで
かつて出会った
女たちは一人として
きみのような目で
哀れんではくれなかった

「三鷹行きの電車が参ります
危ないですから下がってください」

ホームに来れば あなたと会える
いつでも会いたい時にね
不思議 誰にも見えないの?
みんな それどころじゃないのさ
住む世界は違うのにね
ぼくたちはもう
同じ世界にいるかもしれないよ

「ホームの端を歩かないでください!」

黒い影が
宙に舞った
黄色い線を越えた時
小さな風が起きたという
止まった時間と
消えてしまった速さ
車輪とレールの間に
世界が見えた

松の葉さえ
金色に光っている
楓は黄色く紅く
夜だというのに
何もかもがくっきり見える
魚(うお)になった
体の中を流れる
澄みきった水が
波に煽られ
尾びれをたてて宙を舞う
一瞬
あの夜の
レールが見えた
たちまち水に呑みこまれ
私はもとの魚となる

「黄色い線の内側まで
下がってお待ちください」

「ホームの端を歩かないでください」

「間もなく二番線に
普通電車三鷹行きが参ります」

わからなかったんだ
この先に何があるか
きみがいなければ
今も思いきれなかったろう

わたしじゃなくてもよかったのよ
そうかな?
ごめんなさい いやね私って
もっと早く会っていればよかった
私だって
きみには感謝しているよ

「電車とホームの間が
広く空いておりますので
御注意ください」

「危険ですから下がってください!」

やあ また来てくれたね
会いたかったから
ぼくもだ 座ろうか
会いたかった……

温もりもなく冷たさもない
今夜も
魚は泳いでいた
月を見た
満開の花を見ていた
波と戯れながら
水面(みなも)に映る松や楓を見た
忘れてしまっている
何もかも
幾筋ものレールが
敷かれていたこと
女と男がいて
ふたりきり
ホームのベンチで語り合っていたこと
その他の一切
魚がいるのは
速さを失くした場所
人の世をいつ
呑みこんでしまうともわからない
時速0km下にある
永遠の世界だった



「万華境」

木部与巴仁



この窓から見える風景が
わたしは好きよ
大好き
あなたに逢うより
この景色を見たくて
来るのかもしれない
だとしたら怒る?
気がつくと
電車の音が聞こえなくなっているの
どこにいるのかも
わからなくなっている
光が
違うのね
朝と夜
雨の降る日と風の吹く日
冬と夏の光
私の心を見ているみたい
変わって
変わって
変わってゆく
私にさえわからない
心のうつろい
手に取ろうとしてもできない
見つめるだけの
心の模様が
この窓の向こうにある



鉄道ビルというのね
町の風景が途切れるあたりに
柱のように建っている
コンクリートと鉄でできた
灰色の建物
東京を走るたくさんの鉄道が
ただ一か所
あのビルが建つ
あの場所で交わっている
路線が増えすぎたので
そうしなければ
ひずみが生まれるの?
だから鉄道ビルっていうんでしょう?
どれくらいの高さかしら
曇りの日には
ビルのてっぺんが見えなくなるのよ
暑い日には
からからに乾いて
雨の日には
濡れているだけ
風の日には
吹きさらされて
芯まで冷えてゆくでしょうね
ねえ
あそこに人が住んでいるって
本当?



窓や通路はないし
入口はない
出口もないよね
でも聞いたことがある
鉄道ビルには
誰かが住んでいるって
暗がりに
人影が見える
電車の窓から
男の姿が
女の姿も
愛しあっているかもしれない
わたしたちみたいに
子どもの姿まで
無邪気に走っているというわ
嘘よね
あんな寂しい場所に
でも
予感といっていい
わたしの心からなくならない
ぼんやりとした期待が
鉄道ビルを通り抜ける時
見えるんじゃないかしらって
振り返っている
冷たく寂しい
ほこりだらけの場所



雪が降っているよ
窓の向こうが
一面の粉雪
窓を開けてみて
平気よ
寒くない
ああ きれい
カーテンが揺れて
部屋が雪でいっぱいになってゆく
動かないで
こうしているだけでいい
音が消えるのよ
雪の降る日には
鉄道ビル
今日は見えないでしょう
真下に立って見上げると
たくさんの電車が通り抜けてゆく
そこに雪が
降り注いでいるのよ
本当にあるとは思えない
そんな風景が
目を閉じれば
見えてくるのだけど
本当に
今もあるのかしら
ねえ



この部屋で
何もかも忘れて
一日中
愛しあっていたい
あなた以外にほしくない
窓もカーテンも閉めて
灯を消して
二人だけになる
そうして時々
鉄道ビルを眺めるのよ
昨日ね
鳥を見たわ
緑色をした
尾羽の長い鳥が何羽も
群れを作って飛んでいった
聴いたことのない声で鳴きながら
鉄道ビルの方に
鴉が驚いたように
電線に止まって眺めていたの
初めて見たんでしょうね
わたしも初めて
ねえ
抱いて
あなたとなら忘れられる
時間も場所も
全部



わたしたちの世界が終ってしまうみたい
稲妻があんなに
鳴り止まないのね
明け方からずっとよ
世界が終る時って
あんな風景じゃないかしら
それを二人で
こうして眺めている
終ってもいいかもしれない
裸の背中に流れる
わたしの長い髪が好きだって
ありがとう
その言葉だけでいい
あ また光った
ねえ
鉄道ビルから
この部屋は見えるでしょうね
わたしたちだって見ているんだから
本当に人が住んでいるなら
裸のまま
遠い部屋で愛しあっているわたしたちを
知っているでしょうね
終ってしまっていいのよ
あの稲妻がこの部屋に落ちて
この世の中の全部を
終らせてほしいの



何も起こらないのよ
起こらなくていい
何もかもこのまま
変化もなしに過ぎてゆく
この部屋でだけ愛しあって
別れて 逢って
逢って また別れて
あなた 窓を開けて
鉄道ビルが遠くに見えている
地面を走る電車も
高架線も地下鉄も
鉄道ビルで交わるの
裸のわたしを見ているだけでいい
そういってくれた
あなたが好き
いいのよ 黙っていて
熱いね
いつもよりずっとずっと熱い
埋もれてしまいたい
重たい時間の中に
永遠に
ううん 冗談よ
抱いてちょうだい
うれしいよ
何もいらない
そうしてくれるだけで満足よ



『捨てたうた』
(詩・木部与巴仁 時速0km下の世界」「万華鏡」「約束1977年のために」より)

田中隆司・構成


(男)
満月だった
水の中の魚(うお)として
空を見上げた
花が咲いて
世の果ての山に似る
満月の有り様(ありよう)

(駅員)
間もなく二番線に
普通電車が参ります

(黒衣の女)
作ってあげましょう
あなたのために
人形を

(男)
海の満ち干
逆巻く潮(うしお)が
渦になって流れている

(きみ 娘)
この窓から見える風景が
わたしは好きよ
鉄道ビルとゆうのね
町の風景が途切れるあたりに
柱のように建っている

(黒衣の女)
作ってあげましょう
あなたのために
人形を

(男)
最後の一歩が踏み出せなかった
あの日々
ホームの端で
純色(にびいろ)のレールを見つめていた
光る
虚空の月

急ぎ足で去ってゆく
女たち 男たち

(黒衣の女)
作ってあげましょう
あなたのために
人形を
作ってあげる
あなたに似せた
やせっぽちの
人形

(男)
誰でもいい
背中を押してほしかった
カーブを描いたホーム
その真下に
速度のない世界を

振り返えると
きみはぼくを見ていた

(きみ 娘)
雪が降っているよ
窓の向こうに
一面の粉雪
窓を開けてみて
部屋が雪いっぱいになっていく
音が消えるのよ
雪の日には

(男)
三十年が経つ
初めて出会った
あの瞬間
二十歳のあなたは
まぶしかった

(駅員)
三鷹行電車が参ります
危ないですから下がって下さい

(きみ 娘)
この部屋で
何もかも忘れて
一日中
愛しあっていたい

ルラルラ ルラルラ
ルラルラ ルラルラ

鳥を見たわ

(黒衣の女)
ククク

(男)
ルラルラ ルラルラ
ルラルラ ルラルラ

(きみ 娘)
緑色した
尾羽の長い鳥が何羽も
群を作って飛んでいった
聴いたことのない声で鳴きながら
鉄道ビルの方へ

(黒衣の女)
フウ

フウ フウ
フウ フウ
フウ フウ

(男)
ルラルラ
ルラルラ ルラルラ ルラルラ
ルラルラ ルラルラ

(駅員)
ホームの端を歩かないで下さい

(きみ 娘)
裸のまま
遠い部屋で愛しあっているわたしたち

ルラルラ
ルラルラ

ルラルラ
ルラルラ

(男)
ルラルラ
チチ
ルラルラ
チチ

ルラルラ ルラルラ

(黒衣の女)
約束!
約束!
約束!

一九九七年 ために

(きみ 娘)
ああ

(黒衣の女)
作ってあげましょう
あなたのために
人形を

(きみ 娘)
ああ

(男)
あれは

(きみ 娘)
ああ

(黒衣の女)
作ってあげましょう
あなたのために
人形を

(男)
あれは

(きみ 娘)
ああ

(駅員)
ホームの端を歩かないで下さい

(黒衣の女)
歌ってあげましょう
あなたのために
もう一度
もう一度 もう一度

(男)
あれは捨てたうただ
捨てた時間
捨てた記憶

(黒衣の女)
歌ってあげましょう
あなたのために
もう一度

(きみ 娘)
ああ

ああ
稲妻が
あ あー
終わってしまう
わたしたちの世界が

(黒衣の女)
ウウ ウウ
ふう
ふー うー

(男)
ああ
黒い影が
宙に舞った
黄色い線を超えた時
小さな風が起きたという
止まった時間と
消えてしまった速さ
車輪とレールの間に
世界が

(駅員)
黄色い線の内側まで
下がって

(きみ)
裸の背中に流れる
わたしの髪が好きだって
わたしの髪
長い髪

(黒衣の女)
作ってあげる
あなたに似せた
やせっぽちの
人形 人形

(男)
松の葉さえ
金色に光っている
楓は黄色く紅く
何もかもくっきりと
ああ
捨てた記憶
捨てた時間
捨てたうた!

ああ

(駅員)
ホームとレールの間が
広く開いて

下がって下さい

下がって下さい
下がって!

(駅員)
発車進行

(男)
時を
時の記憶を

今夜も
魚は泳いでいた
月を見た
満開の花を見ていた

   *

『主題と変奏、或はBGMの効用について』
*『主題と変奏、或いはBGMの効用について』で詠まれる詩です。

『十二月九日』

清道洋一

十二月九日 水曜日
小雨後 雪
休暇を取って動物園へ 行く
昨夜から 降り出した 雨は
乾いた 東京の 空気に
潤いを 与えて 心地よい
雨の動物園は
平日 ということもあって
とても静かで 空いていた
ゆっくりと 動物を 観察する
帰り道
人 という 檻があったら
誰が入るのが
ふさわしいかについて 考え
数人を 檻へ入れた
昼を過ぎたあたりから みぞれへと
変った雨は
夕方には
本降りの雪 となって 積もる
雪見酒
でも酒がない
こんな大雪の中 酒 買いに行く


『愛の詩(うた) 雪鼠』

木部与巴仁

雨をついてひた走る 中央高速
土砂降りの 九月
あの子たちに逢いにひと月ぶりで 行く
絶滅を 危惧される 雪鼠
一緒に 暮らしたことも あった
飼うだけで 犯罪だと 脅かされ
山奥に放したのだ
雪子と雪雄 密輸入の犠牲者
ペット業者は 逮捕された
真夜中の 山道を 登り続ける
獣道
ふと 気配を 背中に感じて
歩みを止めた
懐中電灯に浮かんでいる 無数の眼
子どもが 子どもたちを生んで
あたり一面に雪鼠の世界が できあがった
誰も知らない
こんなところに
レッドリストに載った 野生動物が いるなんて
雪見酒
飲み明かそう
雪子と雪雄と子どもたち 孫たち 夜明けまで

   *

『時は静かに過ぎる(奇妙-ふしぎ-な消失より) 』

G.アポリネール原作、堀口大學訳詩、紀光郎詩的構成

(*詩唱)
暗き陰にて 時は哭く
月はいずこ 音も死せるや この夜半に

哀れな 秋よ 病める 秋よ

暗き陰にて 時は哭く


(*朗読)
往来へ出ると、僕らは黙りこくって歩いた。オノレ・シュブラックは、不安げに、たえず首を左右にふり動かしていた。彼が、不意に悲鳴を上げた、そして例の僧服とスリッパを脱ぎすてながら、一目散に駆け出した。僕は、うしろから、一人の男が駆けて来るのを見た。僕はそ奴(やつ)を引き止めようと試みた。だがこれは失敗だった。男はピストルをかざして駆け抜けながら、オノレ・シュブラックを狙っていた。友はと見ると、ようやく兵舎の高塀の下にたどりついて、その中へ魔法のように、今しも溶けこんだところだった。続けて、ラベンダー色のスカートも、塀の中に消えた。
ピストルをかざして駆けつけた男は、愕然とした様子で立ち止ったが、怒りの喚(さけ)びを発しながら、不倶戴天の自分の仇敵に加勢した憎いこの土塀に、復讐でもするかのように、オノレ・シュブラックが溶けこんだあたりにめちゃめちゃ発砲するや、駆け去っていった。
群衆が集まって来た、警官が来て、これを立去らせた。誰もいなくなってから、ここぞと僕は、そっと友を呼んでみた。だが彼からの応答は聞かれなかった。
僕は土塀に掌(て)をあててみた、そこはまだ温かかった。
と、手をふれたあたりが、ふわっと薄紅色ににじんだかと思うと、つーっと一すじ赤い線が流れた。また少し離れたところから、追いかける様に、赤くつーっと。
二本の血は平行線をたどって、地上にとどいた。


(*詠唱)
「思い出は狩の角笛」

思い出は 狩の角笛
風のさなかに音は消える

想い出の中でさえ雨は降る
死せる女の声に似て
木の葉 蒼ざめ すすり泣く

思い出は 狩の角笛
風のさなかに音は消える


(*詠唱)
「時は静かに過ぎる」

時は静かに過ぎる
うなだれし 葬いの列のごとく

さし殺された想い出の優しい面影

色褪せし夕ぐれに
バラ 色のメランコリア

時は静かに過ぎる
うなだれし 葬いのれつのごとし

   *

『めぐりあい〜陽だまり〜 』

木部与巴仁

冷たい朝に身を寄せ合い
陽だまりがそっと生まれてた

白い息を
吐きながら
たったひとりで
歩いてゆく

冷たい朝に身を寄せ合い
陽だまりがそっと生まれてた

ひびわれたアスファルトが
幸せそうに
微笑んでいる
嬉しくなった
冬の街角

どこへ行くの?
わからない でも
私は生きられる
ありがとう
あなたの歌を聴いたから